「神々の山嶺」
夢枕獏著「神々の山嶺」を読み終えました。
ジャンルとしては山岳小説ですが、抜群に面白くて
一気に読んでしまいました。
まず、書き出しが良い。
それは、美しい横縞の模様が刻まれた拳大の黒い石だった。
この一行を読んだ瞬間に、
「この本は面白いぞ」
と確信しました。
発端は、エベレスト帰りのカメラマン、深町がカトマンズの
裏街で見つけた古いコダック・カメラ。
そこから謎解きが始まって、やがて、伝説のクライマー、
羽生丈二について調べる内に、どんどん彼の世界に引き
込まれていく…。
そして、深町は再びネパールへ……。
特に、クライマックスであるエベレスト南西壁冬季無酸素
単独登攀の描写は、凄まじいまでの恐怖感と緊張感、さらに
絶望感に満ち溢れていて、身震いするほどです。
私の部屋の気温は現在2℃。外を吹き荒れる風雪の音と、
指先がかじかむ程のピリピリとした寒さが臨場感を一層
引き立てます。
時に哲学的であり、詩的でもあり、ミステリーや活劇も…。
山岳小説に付きものの「女」も重要な役割をしています。
もはや伝説となった名クライマー、故長谷川恒男がよく似た
名前で登場しているのにはほくそ笑んでしまいましたが、
これほどの大傑作を今まで知らなかったのは全く迂闊でした。
山をやる人もやらない人も、それぞれのイメージで楽しめる
小説と言って良いでしょう。お薦めです。
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コメント
だいぶ前に読みましたが、その前に長谷川恒夫さんの実録的な本を読んでいたので、随所に「あれっ、全く同じような記述が」と感じてしまったのが、ちょっと残念でした。おもしろく読み進んでいるのに、一瞬盗作かと思っちゃうほど似た文章が出てくるので、うむむー・・・でした。
実際にあった超絶クライマーの話を参考にしていたから臨場感があるんですね。著者自身もカイラスとか行ってますし。
投稿: あかねずみ | 2009年12月23日 (水) 23時06分
>あかねずみさん
長谷川恒男さんの実録的な本というと、佐瀬稔著
「長谷川恒男 虚空の登攀者」ですかね?。
今、手元にある「長谷川恒男 行くぬくことは冒険だよ」
という本をめくってみましたが、拍子抜けするほど淡々と
しています。本職の作家が書く小説の方が遙かに臨場感と
迫力がありますね。
大場満郎さんの「極限に挑む男の遺書」を読んだ時にも
思いましたが、本を何冊も書けるような凄いことをやっているのに、
サラッと流すように一冊に収めていたので、
「勿体ないなー
」
と思ったものです。
ですが、謙虚な姿勢で厳しい自然に対峙し、運に身を任せている
部分のある人間というのはそんなものだと思います。
だからそフィクションに存在意義があるとも思います。
昨日、羽生丈二のモデルになった登山家の本を注文しました。
私は彼らのような危ない山はやりませんが、今期の山を始める前に
気分を盛り上げようという作戦です。(笑)
投稿: ファーマー佐藤 | 2009年12月23日 (水) 23時35分